いつしか蝉時雨も聞こえなくなり、かわりに秋の足音が聞こえて参ります。皆様におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
本年10月、ノルウェーの首都オスロのオペラハウスにおきまして舞踊劇『Simulacrum/シミュレイクラム』を上演する運びとなりました。ここに謹んでご案内申し上げます。
数年前にノルウェーの劇団ウィンターゲスツ(Winter Guests)の主宰者・演出家・振付師であるアラン・ルシアン・オイエン氏の依頼を受け、企画がスタートしました。ウィンターゲスツはノルウェー演劇界で最も先鋭的な作品を発表し続けている劇団です。
共演はアルゼンチン出身の舞踊家ダニエル・プロイエット氏です。プロイエット氏は33歳のコンテンポラリー・ダンサーで、若くして故国アルゼンチンを旅立ち、ヨーロッパ各地の舞踊団で研鑽を積み、2010年にはダンス専門誌『ダンス・ヨーロッパ』で「2010年ダンサー・オブ・ザ・イヤー」の称号を獲得しました。日本でも歌舞伎の女形と日本舞踊を学び、本作では私の亡き母を女形舞踊で演じます。
青年時代にシベリア鉄道でヨーロッパに渡りスペインで十年間武者修行して帰国した私と、アルゼンチンから地球の真裏に位置するヨーロッパに移住してバレエやコンテンポラリー・ダンスに邁進し、はるばる日本に渡って歌舞伎と日本舞踊を学んだプロイエット氏がオスロの舞台で邂逅を果たします。本作におきましては二人の生い立ちをそれぞれ自伝的に描きつつ、コンテンポラリー・ダンスとフラメンコ、歌舞伎の手法を融合し、英語とスペイン語、日本語の台詞も駆使して、祖国とは何か、アイデンティティーとは何か、歴史とは、記憶とは、真実とは何かを根源的に問う多面的かつ複合的な舞台を創造します。
本格的な稽古は二年前に始まりました。2014年11月18日~21日にかけて、フランスのノルマンディー地方のカーン国立振付センターにおきましてワークショップを開催し、最終日にオイエン氏振付による試演を行ないました。本年は5月末から6月半ばまでオスロのオペラハウスで、6月から7月末までアメリカのメリーランド州におきましてリハーサルを重ねて参りました。
本作のタイトル――Simulacrum――は「似姿、像、幻影、面影、見せかけ」を意味するラテン語が語源の英語で、〈現実と虚構〉〈実体とまぼろし〉〈真実と虚偽〉などの対立関係を昇華、融合させる試みです。
スタッフも国際的で、アルゼンチン人のプロイエット氏と日本人である私、そしてノルウェー人であるオイエン氏の他、オイエン氏と共に台本を共作したアンドリュー・ウェール氏はイギリス人、共同制作者のウェイン・アシュレーはアメリカ人で、多国籍な陣営です。長期ヴィジョンで創作されて行く過程で作品のふくらみや人間関係の深まりを感じる毎日でした。幸せな時間の経過を体験した喜びをお伝えしたく、一筆したためました。
末筆ながら皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。
2016年8月
小島章司
日時 | 2016年10月13日(木)~15日(土) |
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会場 | オスロ・オペラハウス(ノルウェー) |
料金 | 100~300NOK |
舞踊 | 小島章司 ダニエル・プロイエット |
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振付・台本 | アラン・ルシアン・オイエン |
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台本 | アンドリュー・ウェイル |
振付 | 藤間勘十郎(藤間流宗家) |
舞台美術 | アスムンド・ファラバーグ、アンディー・カバトルタ |
照明デザイン | マーティン・フラック |
チケット購入方法 | 公式サイト(英語)をご覧下さい。 |
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